オウンドメディアのKPIは、KGI(最終目標)から逆算してツリー状に分解し、運用フェーズごとに主指標を切り替えて設計します。PVだけを追う状態から抜け出し、成果につながる指標をどう組み立てるかを、設計手順とフェーズ別の置き方に沿って解説します。目的やコンセプトから見直したい方はオウンドメディアの全体ガイドもあわせてご覧ください。
この記事の監修者

山本洋輔|なにゆえ株式会社 代表取締役
日本ブランド経営学会理事|株式会社マルタントン取締役
アビスパ福岡 AVISPA DAOブランドコーディネーター
1986年生まれ 岐阜県出身。映像制作会社に勤務したのち独立し、のべ500社・1万件以上の様々な媒体・形式のクリエイティブを手掛ける。2014年にドイツ発の解説動画制作会社 simpleshowの日本法人立ち上げ期に参画、上場企業80社以上の解説動画を制作。現在はYouTube運営、ビデオポッドキャスト番組プロデュース事業に注力している。2児の父。




オウンドメディアのKPIとは?KGIとの違いと設定の全体像

KPI(重要業績評価指標)は、KGI(最終目標)を達成するための途中経過を測る中間指標です。KGIが「オウンドメディア経由の問い合わせ月20件」なら、そこに至る流入数やコンバージョン率がKPIにあたります。KGIを頂点に置き、そこへ至る要素を分解して設定するのが、KPI設計の出発点です。
KGIとKPIを混同したまま指標を並べてしまうと、数値は追っているのに何のために追っているのかが曖昧になります。KGIは「最終的に何を達成したいか」、KPIは「その達成に効く中間の打ち手をどう測るか」という役割の違いを、最初に社内で言語化しておきましょう。
KGI(最終目標)の決め方
KGIは事業の成果に接続する数値で置くのが基本です。売上や受注件数のほか、リード獲得数・採用応募数・指名検索数もKGIの候補です。オウンドメディアは中長期の資産づくりの側面が強いため、短期の売上だけをKGIに固定せず、目的に合った到達点を選びましょう。たとえば採用を主目的にするなら「応募数」や「価値観に共感した応募の割合」がKGIになり得るでしょう。戦略段階での目的の決め方はオウンドメディア戦略の立て方で詳しく扱っています。
なぜKPI設計が成果を左右するのか
KPIが曖昧なままだと、記事を増やすこと自体が目的化し、成果への手応えを失いやすくなります。逆にKGIから逆算したKPIがあれば、どの数値が伸びれば最終目標に近づくのかが見え、改善の優先順位を判断できます。KPIは「測るための数字」ではなく「次の打ち手を決めるための数字」だと考えると、指標選びの迷いが減ります。数字を見て次の行動が決まらないなら、その指標はKPIとして機能していないサインです。
KPIツリーの設計方法|KGIから指標を3層に分解する
KPIツリーは、KGIを頂点に置き、そこへ至る指標を段階的に分解して作ります。当社が推奨するのは、指標を「量→質→成果」の3層に整理する組み立て方です。闇雲に指標を並べず、層の役割を分けることで、どの数値がどの数値を押し上げるのかという因果が見えやすくなります。
まずKGIを決め、次にKGIに直結する成果指標(コンバージョン数など)を置きます。その手前に質の指標(コンバージョン率・回遊・自然検索順位)、さらに手前に量の指標(流入数・記事公開本数)を配置する順序です。上から下へ「何によって達成されるか」を問い続けると、ツリーは自然に伸びていきます。
たとえばKGIを「問い合わせ月20件」とするなら、成果層は問い合わせ数、質層はコンバージョン率と検索順位、量層はセッション数と記事公開本数、というように一本の線でつながります。この線がつながっていれば、量を増やすべきか質を改善すべきかを、数字を見て判断できます。
KPIツリーを3層で組む(量→質→成果)
| 層 | 役割 | 代表的な指標 | 位置づけ |
| 成果層 | KGIに直結する結果 | コンバージョン数・問い合わせ数・資料DL数 | ツリーの上位。事業成果に最も近い |
| 質層 | 成果への転換効率 | コンバージョン率・自然検索順位・回遊率・滞在時間 | 量を成果へ変える中間指標 |
| 量層 | 母数となる活動・接触 | セッション数・PV・UU・自然検索流入・記事公開本数 | ツリーの土台。行動でコントロールしやすい |
PVやUUは量層に位置づく土台の指標であり、単独で成果を保証するものではありません。ツリー上での位置を意識すれば、どこを動かせば成果に効くのかが見えてきます。
数値目標の設定と妥当性チェック
各指標には具体的な数値と期限を入れ、達成可能で意味のある水準かを確認しましょう。指標を増やしすぎると運用が形だけになるため、各層から主要な指標を絞り込むのが実務上のコツです。下位の指標をすべて達成したらKGIに届く計算になっているかを検算すると、因果の抜けにも気づけます。ツリーを機能させるのは、KGIと連動しない指標は、どれだけ数値が良くても外すという判断です。計測に使うツールの選定はコンテンツマーケティングツールで別途整理しています。
ここまでの要点:KPIツリーはKGIを頂点に「量→質→成果」の3層で組み、各層から主指標を絞り込む。PV・UUは土台の量指標として位置づける。
【フェーズ別】立ち上げ期・成長期・成熟期のKPIの置き方

フェーズ別のKPIでは、立ち上げ期は行動量、成長期は集客と質、成熟期は成果指標を主にします。同じ指標を全期間で追い続けるのではなく、メディアの成熟度に合わせて主KPIを切り替えることが、無理のない運用につながります。早すぎる成果要求は現場を疲弊させるため、段階に合った指標を選びましょう。
立ち上げ期のKPI(続けられる行動量を主に)
立ち上げ期は、検索評価もアクセスもまだ積み上がっていない時期です。ここでコンバージョンを主KPIに置くと、達成できないことが常態化してしまいます。まずは記事公開本数や収録・制作の継続本数といった、自分たちの行動でコントロールできる量の指標を主に据えるのが現実的です。この時期の主役は「出し続けられているか」であり、成果はまだ問わない割り切りが後の伸びを支えます。ただし行動量はKGIへ向かう途中経過だという合意を、社内で先に取っておきます。
成長期のKPI(集客と質を主に)
コンテンツが一定数たまり、検索からの流入が生まれ始める成長期には、量の指標に質の指標を重ねます。自然検索流入数や検索順位、回遊率、コンバージョン率が、この段階の主KPIです。流入は増えているのにコンバージョンが動かないなら、質層のどこで止まっているかをKPIで切り分けましょう。
成熟期のKPI(成果指標を主に)
流入も認知も安定してくる成熟期には、コンバージョン数や受注貢献、指名検索数といった成果に近い指標を主KPIへ引き上げる段階です。成熟期でも量の指標をゼロにはしないことがポイントで、土台となる公開本数や流入が細れば、成果指標もいずれ頭打ちになります。
さらに、フェーズという時間軸だけでなく、目的の軸でも主KPIは変わります。オウンドメディアで実感されている効果の1位は、企業イメージ向上・ブランディングで76.7%でした。次いで採用の強化が52.4%、社内コミュニケーションが51.5%と、売上に直結しない中間成果が上位を占めます(宣伝会議「オウンドメディア活用に関する調査2024」・2024年時点)。当社は、これらはいずれも正当な目的であり、時間フェーズと目的の二軸で主KPIを分けるべきだと考えています。
フェーズ×目的で見るKPI早見表
| フェーズ/目的 | ブランディング | 採用 | 社内共有 | リード獲得 |
| 立ち上げ期 | 記事公開本数・指名検索の芽 | 発信本数・社員登場記事数 | 掲載本数・閲覧部署数 | 記事公開本数・流入数 |
| 成長期 | UU・SNS言及・回遊率 | 応募経路の流入・記事閲覧数 | 社内閲覧率・反応数 | 自然検索流入・CVR |
| 成熟期 | 指名検索数・引用/言及 | 応募数・採用への寄与 | 行動変容・浸透度 | コンバージョン数・受注貢献 |
この早見表は、時間軸と目的軸を掛け合わせた当社の分類フレームです。自社のフェーズと目的が交わるマスが、いま主に追うべき指標の目安です。運用体制やスケジュールに落とし込む段階は、オウンドメディア運用の体制とスケジュールで具体的に解説しています。
PVだけを追うKPIが成果に結びつかない理由

PVだけをKPIにすると、閲覧は増えても成果に結びつかない状態が起きやすくなります。PVが主指標に選ばれる一方でコンバージョンまで見る設計になっていないことが、成果実感の乏しさにつながっています。PVは母数として重要ですが、KGIと連動していなければ成果の説明には使えません。
実際、オウンドメディアの評価項目としてページビュー数を挙げる担当者は69.2%と最も多くなっています。次いで記事公開本数が48.7%、ユーザー数が35%と続き、「測定していない」も10.3%を占めます(宣伝会議「オウンドメディア活用に関する調査2024」・2024年時点)。当社は、PVが最も置かれるのは測りやすいからであり、KGIと連動しないPVは成果の証明にならないと見ています。
「続かない」とKPIは形だけになる
もうひとつの落とし穴が、続かないことです。同じ調査では、課題の1位がコンテンツ数の維持で58.1%、人材不足が48.7%にのぼります(2024年時点)。当社は、続かなければKPIは絵に描いた餅になると考えており、立ち上げ期には成果指標より先に、続けられる行動量を主KPIに据えることを勧めています。月1回の収録から複数媒体の発信を積み上げる運用のように、無理なく回る仕組みと行動量KPIをセットで設計すると、数字が机上論で終わりません。数値を改善につなげるPDCAの実務はオウンドメディア運用の体制とスケジュールで扱っています。
ここまでの要点:PVは測りやすいが単独では成果を説明できない。立ち上げ期は「続けられる行動量」を主KPIにして、形だけの運用を防ぐ。
AI検索時代に加えたいオウンドメディアの新しいKPI

AI検索時代は、引用・言及・指名検索という「参照される状態」を中長期KPIに加えます。検索やAIが情報を要約して提示する場面が増えるなか、自社が発信した内容がどれだけ参照・言及されるかは、従来のPVやCVだけでは捉えきれない価値になりつつあります。この視点を既存のKPIツリーに重ねるのが、これからの設計です。
コンテンツ制作で生成AIを活用する担当者は34.2%に達し、作る側のAI活用は着実に広がっています(宣伝会議の同じ調査・2024年時点)。読む側の情報接触もAIを介する場面が増えれば、KPIは「読まれる」だけでなく「参照される」状態まで測る必要が出てきます。
当社の見解・スタンス:当社のなにゆえがたりは、経営者の語りという自社にしか出せない情報を、AIや検索に引用される情報資産として蓄積する立場です。当社は、自社発の情報を資産化するメディアでは、PVやCVと並んで「AIや検索に引用・言及される状態」と「指名検索数」を中長期KPIに据えるべきだと考えています。短期の成果指標だけで判断すると、中長期で効いてくる価値を取りこぼしかねないためです。
KGI・KPI・AI時代の新指標の対応表
| 階層 | 従来の代表指標 | AI時代に加えたい視点 |
| 成果(KGI寄り) | コンバージョン・受注貢献 | 指名検索数・想起の広がり |
| 質 | CVR・自然検索順位 | AI・検索での引用/言及の有無 |
| 量 | PV・UU・記事公開本数 | 自社発の情報の蓄積量(語りの本数) |
この対応表は、従来の3層に「参照される状態」を重ねた当社の見解フレームです。既存の指標は捨てず、右の視点を中長期KPIとして足していきます。
ただし当社は、引用・言及の計測方法はまだ確立していないと見ています。継続して数えられる指名検索数と組み合わせ、月次ではなく中長期の推移で見るのが現実的です。
オウンドメディアのKPIに関するよくある質問
KPI設計でつまずきやすいのは「いくつに絞るか」「いつから設定するか」「PV以外に何を見るか」の3点です。いずれも運用フェーズを基準に決めると、迷わず絞り込めます。
KPIはいくつくらいに絞るべきですか?
各層から主要な指標を1〜2個ずつ、全体で数個に絞るのが目安です。指標が多すぎると計測と共有の負荷が上がり、どの数字を優先すべきか判断できなくなります。KGIに最も効く指標から選び、迷ったら外す方針にするとよいでしょう。
KPIはいつから設定すべきですか?
立ち上げの企画段階から、KGIとあわせて設定するのが理想です。ただし立ち上げ期はコンバージョンなどの成果指標ではなく、記事公開本数のような行動量を主KPIに置き、フェーズの進行に合わせて成果指標へ比重を移していきます。
PV以外に見るべき指標はありますか?
コンバージョン率や自然検索流入、指名検索数、そしてAIや検索での引用・言及が挙げられます。PVは量層の土台として残しつつ、質層・成果層の指標を組み合わせると、KGIへの近づき方が見えてきます。目的がブランディングや採用なら、それぞれに合った中間指標を主に据えましょう。
目的やコンセプトから設計を見直したい場合は、オウンドメディアの基本設計もあわせて確認してください。
まとめ
オウンドメディアのKPIは、KGIを頂点に「量→質→成果」の3層でツリーを組み、フェーズと目的に応じて主指標を切り替えることで、成果につながる設計になります。土台のPVは成果指標まで線でつなぎ、立ち上げ期は続けられる行動量を主KPIに据えることが、形だけの運用を防ぐ第一歩です。さらにAI検索時代には、引用・言及・指名検索という参照される状態を中長期KPIに加えることで、自社が積み上げてきた語りが資産として効いてきます。自社の目的とフェーズに立ち返り、追う数字を決め直すところから始めてみてください。


